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第28話

到着


 3年後。  深い眠りのような長い長い歩行から、ふと目覚めた。  理由は、背中にまるで体の一部のように感じられるカナが、スリープ状態から覚めたのを感知したからだ。 「起きた?」  声を出してみると、意外にも普通に発せられた。  3年間一言も発さず歩き続けたから、喉のスピーカーが錆びついて動かなくなったかと少し心配だったが、明瞭な音が出て一安心。 「あ、ごめん!」  カナが慌てたように、肩を枕にしていた頭をぱっと上げ、まるでよだれを拭うような仕草をしてから続ける。 「つい眠っちゃった。私、何秒寝てた?」  94,608,003秒と正直に言おうかと思ったが、無粋だと感じ、真実の一部だけを伝える。 「3秒だよ」 「3秒も?!」カナが驚く。「ほんと、ごめん! 3秒も一人で歩き続けてたの?」 「まあね」 「ごめん……」カナの声が涙声になる。「ほんとにごめんなさい。寂しかったよね?」 「いや、全然寂しくなかったよ」 「嘘だ」 「嘘じゃないよ」私は強調する。「私は人間だから嘘を自由につけるけど、これは本当だ」 「でも……」  口ごもるカナを安心させるため、私は本心をそのまま伝えることにした。 「大丈夫。カナの体温が温かかったから。その電圧の温もりがね」 「…………」  私の本音が伝わったのか、カナの首の力がふっと緩むのが感じられた。 「まあ、それならいいけど」 「うん。良かったよ」  カナは深い眠りでだらしない状態になった顔や髪を整え始めた。 「うわっ、なにこれ……」  彼女が驚いた声を上げたので、私は後頭部のカメラを起動して様子を窺う。  カナの髪や肩には、細かい星屑のような粉が粉雪のように積もっていた。  彼女がそれを払うと、まるで小さなオーロラがそよ風に揺れるティッシュのようによどみ、周囲に広がった。その一部が私の鼻に入り、思わずくしゃみをする。すると、オーロラはさらに鮮やかな色彩を放ち、まるで神聖な結婚式のベールのように私たちを包み込んだ。  祝福のような現象が去った後、私はようやく状況を伝える。 「前を見てごらん」  カナは素直に視線を前方へ向ける。  そこには、スターポートが見えていた。  空中に浮かぶ純喫茶のような建物で、酒類は提供しない、昔ながらの喫茶店だった。  3年の旅路を経て、ようやく私たちはスターポートにたどり着いた。  煉瓦屋敷のような古風な建物は、深緑色の蔓に覆われ、窓からはバニラ色の柔らかな光が漏れている。まるで老いたおばあさんが孫に童話を読み聞かせるような、穏やかな照度で長旅に疲れた訪問者を手招きしていた。  一角には滝のような部分があり、ほぼ透明に近い、眩いエメラルド色の液体――おそらく人間には有毒な硫酸のようなものが、人工の池に流れ込み、月面にプライベートプールのような水たまりを作っていた。  そこで、裸で水遊びをする数機のヒューマノイドロボットが見えた。  とにかく、この空中に浮かぶ喫茶店、スターポートに、私とカナはついにたどり着いたのだ。