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第21話

地下56階のカジノ


 カジノは駅の地下56階に潜む、息苦しいほど換気の悪い空間だった。  まるでトロピカル・ナイト・シティの熱気と湿気を凝縮し、意図的に閉じ込めたような重苦しい雰囲気が漂っている。圧倒的な熱と湿気が、まるで空間そのものが圧力を帯びて押し寄せてくるようだ。  ここも黒点百貨店のように人で溢れかえっていた。  だが、百貨店の喧騒とは異なり、ここは広大な牧場を思わせる風景が広がっている。  まだら模様の牛が点在し、鮮やかな緑の草をのんびりと食む、田園的な開放感に満ちた空間だ。  だが、その牧歌的な雰囲気の中で、ロックフェスティバルのような狂騒が繰り広げられていた。  客たちは首を振るヘッドバンギングに没頭し、その勢いはボディから頭部が外れそうなほど激しい。  それでも誰も平然としていることから、ここに集うヒューマノイドロボットの耐久性と性能が極めて高いことがうかがえた。  どうやら、このカジノの入場資格は単なる「外国籍」や「国外への移動計画」だけではないらしい。暗黙の性能テスト――この自傷行為に近いヘッドバンギングを耐え抜くほどのタフネスと、ある種のマゾヒスティックな精神が求められているのだと、すぐに理解できた。  私は普段、ボディの動きを最小限に抑えることを好む性格だが、稼ぐためには仕方ない。労働とはそういうものだと、古い記憶の断片が呼び起こされるような感覚に駆られ、首のアクチュエーターに軽く予熱をかけた。耐久性を確認し、バッテリーの残量や動作の余裕をセルフチェックする。  準備を整え、軽く首を下げ、上げてみる。  単純な反復運動にすぎないとわかっていても、実行に移すのはソフトウェアで理解するよりも千倍難しい。  ふと横を見ると、迅璃はすでにヘッドバンギングを始めていた。  彼女のモデルならではの頑丈さが際立つ。  幾多の事故を起こしながらタクシーを運転し続けてきた彼女のボディは、明らかに高性能だ。このカジノの狂乱の雰囲気に、彼女の激しいヘッドバンギングは驚くほど自然に溶け込んでいた。  広大な牧場を模した会場で、窓もなく、時計もない、ただ眩しい夏の青空が広がる空間の中で、彼女の動きはひときわ目立っていた。  ふと疑問が浮かぶ。  なぜここは青空なのか?  なぜ、太陽が存在するのか?  だが、すぐにそれが偽物の空、人工的に作られた明るさだと気づく。  その不自然さが不快感を呼び、ヘッドバンギングの激しさと相まって強いめまいを引き起こした。だが、逆にそのめまいを振り払うように、首をさらに激しく振ると、エラーのような感覚は一瞬で消え去った。  頭を振り続けていると、ヘッドバンギング以外の思考が停止するような状態に陥る。爆音のロックミュージックが会場中に響き、複数のCPUを搭載していない限り、複数の音を同時に処理するのは難しい。  まるで爆弾が絶え間なく炸裂する戦場に放り込まれたような感覚だ。  やがて、私は好みに合うステージを見つけた。  そこでは爽やかなソフトロックを演奏する若手バンドがパフォーマンスを披露していた。  ボーカルは女の子で、他の楽器セッションはすべて男の子で構成されている。最新鋭のアンプや音響機器、高性能なエフェクターが並ぶ派手なステージが多い中、このバンドはシンプルなセットアップを採用していた。  音量も控えめで、「本当に音楽を聴きたいヒューマノイドロボットだけ来てくれればいい」という自由奔放な姿勢が感じられる。  飾り気のない、どこか起業家精神のような情熱が滲むその雰囲気が気に入り、私はこのステージを選んだ。  この思考をデータ化して迅璃に送ると、彼女も激しいヘッドバンギングで少しクラクラしていたのか、爽やかな雰囲気に惹かれたのか、すぐに同意の信号を返してきた。  私たちは手を繋ぎ、そのバンドのステージに向かおうとした。  だが、ヘッドバンギングに夢中になるあまり、歩くのがままならない。  すると、密集する観客の間で何かが起こった。  幸運なことに、私たちのヘッドバンギングが際立っていたことに加え、身にまとった超高級制服の完成度が観客の注目を集めていたらしい。その輝きが相乗効果を生み、私たちは局所的な観客の群れの中で一気に脚光を浴びる存在となった。  観客たちが私たちの体を持ち上げ、まるでロックスターがクラウドサーフィングするかのように、私たちを彼らの手で運び始めた。  密集した観客の海の上を、まるで蜘蛛の巣を滑るように、私たちは目指すバンドのステージへと徐々に運ばれていく。  その間も、ロックミュージックのビートに合わせてヘッドバンギングを止めず、場をさらに盛り上げた。  こうして無事にステージの最前列に着地し、ようやく私たちが選んだバンドの名前を知ることができた。  私と迅璃は同時にその名前を口にする。 「さいころ」